松本スミレ花暦(山地編)
2019年、本屋で信州のスミレという本を手にしたのをきっかけに、スミレの世界に足を踏み入れました。
2019年・2020年の間にたくさんのスミレに出会うことが叶いましたので、その記録を季節順にまとめてみました。
2022年追記: 当時スミレ探しといえば山の中ばかりだったので、山地で会える種が主になっています。いずれ平地編も出せたらいいなあと思っています...
早春(4月上旬)桜がもう少しで先始める~咲きだしたなぁという時期…
二十四節季では晩春清明、いよいよ春らしい春が始まり、万物が清らかで生き生きとしだします。里山ではスミレの季節が到来し、早咲きの種からぽつぽつと顔を見せてくれます。
花弁の縁が紅色に染まっているように見えることと、葉の鋸歯がギザギザめで、披針形なのが特徴。枯葉の隙間にピンク色の花弁が恥ずかしそうに隠れているので、日当たりのよい落葉樹林かつ湿り気のある環境にきたら、枯葉の中のピンク色を探そう。
個人的に横顔がもっとも美しいと思っている。花の開き方、花弁のカーブ具合、色合い。距のさし紅。夕日や朝日に透かされた花弁の甘美さといったらもう。言葉にできません。
とても早咲きで、3月下旬から4月上旬のまだ肌寒いころに700mくらいで咲きはじめるが、標高を上げれば4月下旬でも見ることができる。タチツボスミレがいるような日向~半影地の林道沿いでよく見る。
タチツボスミレと迷ったら、花がピンと咲かず、よれてることが多く、側弁が前ならえ!してるみたいに前を向く特徴でまず判断する。それでもわからなかったら柱頭を見る。タチツボスミレの柱頭はほぼまっすぐだが、アオイスミレはかぎ状に曲がっている。
春真っ盛り 4月中旬~下旬 桜に花が付く~満開のころ
里山ののスミレ前線は1000m付近まで上昇する。
赤松林の林床にて発見。花が咲いているときには無茎だが、その後有茎になるのがふしぎなスミレ。学名のmirabilisは「不思議な」という意味。側弁が密毛で葉が円心形なのが特徴。タチツボスミレとニオイタチツボスミレの中間の種である。柱頭の先端がチョロッと垂れ下がるのも重要な特徴。やや湿った落葉樹林下を好み、そういった場所では群生するそうだ。
はい美形。葉が3股に分裂するのが特徴的。山地のやや湿り気味の林下を好むと思ってさがしていたら、どちらかというと乾燥した堆積岩露頭の亀裂からたくましく咲いていたのでびっくりした。
信頼している後輩の話によると、沢沿いではよく見れるそうだ。この固体は花期終盤に近かったので4月初旬~中旬あたりで完品を来年は狙いたい。
烏帽子のような距がなんともチャーミングな小型の花をつける。エイザンスミレと発生の波はほぼ同じで、4月下旬がピーク。葉っぱが丸っこく、裏はうす紫色である。その紫から紫式部の源氏物語が連想され、ゲンジスミレと名付けられたそうだ。
このスミレの興奮ポイントはなんといっても側弁の裏側の差し色だろう。横顔を拝見するとドキッとする。まるで憂いているような奥ゆかしい紫色の差し色は、うっすら紅潮した玉のような花弁の美しさを際立たせる。
なかなか見つけられず、後半の案内の甲斐あってついにご対面。日当たりのよい開けた場所を好み、見つけた場所もかなりひらけている場所でした。アケボノスミレと同所的に咲いていたのが印象に残っています。
毛が濃い、葉にも茎にも側弁にも、さらには子房にも毛があるのが特徴。顔つきはタダスミレに似ているが、葉が縦長の披針形でタダスミレに比べて翼がとてもしょぼい。翼がない個体もある。剛毛。明るくて乾燥した林縁を好む。
知人に案内してもらいようやく邂逅。ヒカゲスミレ。その名の通り、じめじめ湿って暗い沢沿いで出会った。うつむいて咲いている印象が強かったのは花期のはじめだったからなのだろうか。あんまりピシッと咲かない。ちょっと卑屈な感じ。でもそれが愛おしい。
晩春 5月上旬 桜が葉桜~散るころ 世の中はGW
信州のアケボノスミレは色が濃く、特に濃く花柄も黒い個体はクロバナアケボノスミレと呼ばれる。すっくと立ち上がった花柄のさきに紅の花をつけたその姿は女帝のような高貴さを漂わせている。
乾燥気味の日が適度に差し込む林縁でよく見られる。ほかのスミレに比べ花弁に厚みがあり、丸みがある。
花期には葉の展開は完了せず控えめに丸まっているため、1週間前にはなにもいなかった林縁に突然紅の花がニョキっと現れたような印象を持つ。
立夏 GW終了後~梅雨前 田んぼに水が入り青い香りとカエルの鳴き声
遅咲き系で希少種であるタデスミレに似ているので心臓に悪い見た目といえる。スミレの中でも草丈が高く20~60cmのモデル体型。明るい林縁である程度の湿り気のある場所に群生する。葉は丸みを帯びた披針形。
湿ったところがお好き。湿地でなくても湿り気さえあれば平地の草原でも田んぼのあぜ道でも見ることができる。
草原や別名ツボスミレといわれるように、花弁の形がへこんで見えるのが特徴。この子に出会えばもう春は終わり、夏のような陽気がやってくる。
ニョイスミレの高山型にミヤマツボスミレがある。ミヤマツボスミレには葡萄茎があって葉に微毛がある(個体差あり)大きな特徴で、花弁も色濃くピンク色(個体差あり)である。というが、その区別は大変難しい。
里山からはずいぶん離れてしまうが、この時期標高を亜高山まであげるとミヤマスミレに出会うことができる。やや面長な印象があり、花弁もややすらっと細長い。花色は彩度が高い明るい濃いピンク色でなんとも魅力的。ヒメギフチョウが乱舞するカラマツ林のなかに咲くミヤマスミレは童話に出てくる妖精のようだ。
絶滅に瀕したスミレ。なんというスミレ。このスミレのことを一度考えだすと昼も夜も眠れない。恋焦がれ続けついに見つけた時は心臓が止まりそうになった。なんという造形。なんという爽やかな香り。托葉もあるし距もありちゃんとスミレなのだ。頭がぐらぐらしてきた。このスミレは刺激が強すぎる。永遠に愛したい。永遠に季節がめぐるたび命をつないでほしい…。
これからはスミレのシーズンは亜高山から高山へと移行していきます。今年は高山のスミレにも逢えたらいいな。